花火と火花

2015年09月08日

読書会の中で数年前に立ちあがった企画
「1,000文字小説」
普段読むことにフォーカスした集まりではありますが
書き手となることで新たな発見に繋がるかもしれない
ということで始まりました。
この度のお題は、芥川賞作品にちなんで
「○○と火花」

我ら読書会メンバーの中でも最も鋭い文章感性を持つ
と言っても過言でない遠音さんの作品です。

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『花火と火花』 著:読書会メンバー 遠音(俳号)氏

「ねぇねぇ、聞いてよ!ひどいのよっ」
ランニング雑誌を眺めながら30kmの壁をいかに
トラブル無く越えるか思案していた私の思考を、
妻が前触れもなく突き破ってきた。

まるで障子紙を無遠慮にぶち抜く猫の手のようである。
ここまで沸騰していると、相手をせねばなるまい。

ため息をつきながら雑誌を閉じ、私は「何だい?」と妻の顔を見上げた。

「これよっ」

手に持ったスマホを鼻息荒く振りながら、ぐい、と迫ってくる。

その画面を眺めると、なにやら、和歌の添削らしきもの
が載っている。そのやりとりの中に妻の名前があった。

「へぇ、そういえば和歌を作るとか言ってたねぇ」

「和歌じゃないっ!俳句よ俳句っ」

「ああ、ごめん。文学は、わかんないんだ」

「『よいぞらに、ひばなちらして、はなびさく』。
これのどこが悪いのよっ」

妻が気炎を上げるのを眺めながら、「いい俳句だねぇ」
と私はひとまず褒めた。

「あらっ、わかるの? そうよ、私の最近の中では傑作なのよっ」

途端に目をきらきらさせながら語り出す妻に思わず笑み
をもらしそうになるのをこらえながら、「見せて」と
スマホを受け取った。

「宵空に火花散らして花火咲く」

・無駄があり過ぎる、てんこ盛りのお手本のような句ですね。
・まず「花火」は晩に、空に上がるものです。「宵空」はいらないでしょう。
・また、花火は「咲く」ものです。これもいりません。
・そして「火花散らして」も当たり前です。全ての花火は、火花を
散らします。単なる事実の報告になってしまっており、新しい発見
がありません。
・よって、無駄を省いていくと残るのは「花火」だけですね。
その花火のどこにどのように感動したのか具体的に思い起こして、
それを素直に表現してみて下さい。

妻の手前、吹き出すまいと腹づもりをして読み始めたのだが、
最後の一文でもうこらえ切れなくなった。

それでも懸命にこらえ、震えている私の背中に妻の張り手が
飛んできた。

その体重にたがわない、重量級の一撃である。

一瞬息が止まり、それからむせ出した私に、妻が涙声で
「ひどいじゃないっ!」となじってくる。

たしかに、懸命に作った俳句がただの「花火」にされて
しまったのではやりきれないだろう。

「これは、ひどいな」

あえて主語はぼかし、咳の合間からつぶやいた私の言葉に、
妻はガクンガクンと盛大に首を振りながら
「そうでしょそうでしょっ!」
と涙声で同意を求めてくる。

「うん。頑張れ」

万感を込めて、私は励ました。

(1000文字)



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『3足の同じ靴』遠音編

2015年08月22日

以前、1,000文字小説を書いてみよう!
というのが読書会メンバーの中で盛り上がって
2作品ばかりアップしたのですが、それから
急激に熱が冷め、しばらく忘れ去られていました(^_^;)

しかし、先日ふとしたことで、また1,000文字やって
みようよ!と再加熱。

ということで、久しぶりにこのカテゴリーで
記事アップしてみようと思います。

とりあえず、以前のお題『3足の同じ靴』でまだ
紹介していなかった作品があるのでそれから。

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『3足の同じ靴』 著:読書会メンバー 遠音(俳号)氏


「ただいまあぁぁぁ」

玄関から響き渡る妻の声の張りと伸びを感じて、
私は心の中で静かにファイティングポーズを取った。

来る。

居間に入ってくるなり、着替えもそこそこに妻の攻撃は始まった。
ゴングが私の脳内に鳴り響く。

「アナタ、ねぇ知ってた?おんなじ靴のままだとダメなんですってよ!
買い替えないといけないんですって。

でないとヒザにくるって話よ。

前にヒザが痛いとか言ってたわよね?それよ、原因は!底がね、」

妻の怒濤のラッシュに対して「知っている」だとか「もう解決済みだ」
という反撃はナンセンスである。

私は心の中で、両腕のガードをきゅっと固める。


「…だから、買い替えるべきですってよ!まぁ、アナタが走れようと
走れまいと私には関係ないですけどね、いずれ動けなくなられたら困るわぁ」

頃合いを見て私は、すっと立ち上がった。

「ねぇ、聞いてたの!?ヒザですってよ!ヒザ」

膝など、とっくの昔に回復している。あれは、まだ膝回りの筋肉が未熟
だったから起きた痛みだ。

私は黙って外の物置に向かい、段ボール箱をひとつ抱えて戻ってきた。

「何よ、その箱?」

問いかけには答えずに箱を下ろし、その中から私の大切なものを二つ
取り出して、箱の上にそっと並べた。

「あら?あら、あら?」

妻は、あらあらを連呼した挙げ句に、けたたましく笑い出した。

「まぁまぁまぁ!おんなじのをずっと買ってるのぉ、アナタ!?まぁぁ
よく飽きないこと!」

飽きるとか飽きないの問題ではない。足に合うかどうかが大事なのだ。

「それにしても、二足ともボロボロじゃないの!捨てちゃえば?」

…今のブローは、少々効いた。でも、痛みをこらえて私は反撃に出た。

「これは、私の努力の証だ」

めったにない私の反撃に、妻はふぅんと鼻で返事をし、

「まぁ、場所さえ取らなければいいけれどぉ?アナタは荷物が
元々少ないものねぇ」

勝手に納得し、うなずきながら、妻は着替えるために奥の部屋
へと向かった。


ふぅ、と私は息をついた。終了のゴングは鳴った。

留守番の役目から解放されたし、日が落ちてしまう前に一走り
行ってこよう。


ウェアに着替え、軽くストレッチとアップをしてから、私は玄関
の靴箱から三代目のシューズを取り出した。

多少履き慣れてきたシューズの紐を丁寧にたぐり、引きしめながら
、私の口の端からふと笑いがもれた。

あれでも、私の膝を心配してくれているのだ。

お礼を言ったらはり倒されるのは目に見えているので、私は言わない。

(999文字)









タグ:短編小説
posted by なんちゃって読書人 at 09:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 1,000文字の中で | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『3足の同じ靴』K氏編

2015年08月21日

以前、1,000文字小説を書いてみよう!
というのが読書会メンバーの中で盛り上がって
2作品ばかりアップしたのですが、それから
急激に熱が冷め、しばらく忘れ去られていたのですが
ふとしたことで、また1,000文字やってみようよ!

ということになり、久しぶりにこのカテゴリーで
記事アップしてみます。

とりあえず、以前のお題『3足の同じ靴』でまだ
紹介していなかった作品があるのでそれから。

それにしても、同じお題でも書く人によって
こうまで印象が違う物になるんですね(笑)

今回は落語調です(^^)

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『3足の同じ靴』 著:読書会メンバー K氏


「部長さんこの書類お願いします。」

「うん。きみきみ、部長さんはないだろう。
部長が肩書きだから呼び捨てでいいんだよ」

「はい部長」

「君は期待の星なんだからな。よく見れば革靴が泥で
汚れているじゃないか。磨いていないのかね。人は足元を見るよ」

「これはやむにやまれぬ事情がありまして。僕は同じ靴3足
もっているんですよ」

「そういったってこんなに汚れてちゃ3足もってる意味
もないだろう」

「いえね。僕は会社まで自転車で来ているんですが、いつも会社
に靴を置いておいて運動靴で通っているんです。
あとの2足はアパートと彼女の家に予備のスーツと一緒に置いて
あります。
いつ飲んでどこに行っても仕事できるようにしているんです。
偉いですよね。」


「それじゃ何で泥だらけなんだい?」

「いやー、ここだけの話しですが昨日の飲み会のときにぼったくりバーに
行っちゃいまして、気づいたときにはパンツ一枚にされちゃってて。
取引先から直接行ったのでスーツだったんですよ。
それで靴一足なくしました。」

「なんとまあ。大丈夫だったのかい?」

「幸いにも。ただどうにもならんもんで、彼女に着るものと靴もってきて
もらってホウホウの体で帰りました」

「なんとまあ。それから?」

「アパートに着いて気づいたんです。この靴は僕のじゃないと」

「おや彼女に持ってきてもらったんだろ?」

「違う男の靴だったんですよ。彼女浮気してたみたいで間違えて、
そのあと電話で大喧嘩です。もう彼女の家行けないです」

「なんとまあ、災難続きだな。それでアパートに残った革靴で
今日みたいな雨の中歩いてきたから汚れてしまったのかい?」

「違うんですよ」

「ほう?」

「これ、彼女の浮気相手の靴です」

「ん?」

「相手はうちの会社の奴だったんです。昨日彼女の家泊まって
たって聞いて。だったら僕の靴をはいてきてるんじゃないかって
ピンときたんです」

「なんとまあ。それで浮気相手はいたのかね?」

「いましたとも。さっき大立ち回りをしてきました」

「さっきの大騒ぎはそれかね。おや、そういえば課長が人事から
呼び出されたようだけど。まさか。」

「靴が脱げたきっかけで馬脚をあらわしましたね。」

「なんとまあ・・頭が痛いよ」

「そんなわけで部長さん書類お願いします」

「そういえば何の書類だね」

「僕の始末書です」

「・・・なんとまあ。」

「部長さんに下駄を預けます。・・靴きっかけだけに」

「うるさいやい」

お後がよろしいようで・・

(982字)
posted by なんちゃって読書人 at 23:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 1,000文字の中で | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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